映画『TATSUMI』声の出演、俳優の別所哲也さん単独インタビュー

 

2011年カンヌ国際映画祭「ある視点部門」オフィシャルセレクション出品作品で、日本の劇画の父、辰巳ヨシヒロ氏の半生が描かれた「劇画漂流」と、辰巳ヨシヒロ氏の短編作品群とを交えた劇画長編映画『TATSUMI』が、東京国際映画祭アジアの風部門にて公式上映されました。監督は国際的に注目を集めるシンガポールの映像作家エリック・クー氏。日本からは俳優だけでなく多方面でも国際的に活躍する別所哲也さんが、一人6役を演じ分け、声優として参加しています。

 

只今ミュージカル『ユーリンタウン』公演中で多忙な中、映画『TATSUMI』について、お話を伺いました。

 

 

Q:映画『TATSUMIに声の出演をされ、作品を観た感想は?

 

別所さん:作品を観終わった後は、いろいろなことを考えました。辰巳ヨシヒロという先生の人生を考えましたし、昭和という僕達の父親達の世代が走ってきた高度成長時代とか、戦後の昭和が今の日本の礎、基礎だとすれば基礎の光と影と言えば影の部分が、いっぱい堀深く映されている。これが劇画という漫画とは違う形で、漫画が大人のものとして生まれた辰巳先生の世界が描かれている。一つ一つの声の出演として参加した辰巳先生の作品にあたる『地獄』や『いとしのモンキー』など、一つ一つが持っている悲哀さも胸にくるものがありますし、同時に逞しく生きて積み重ねてきた日本人の昭和20年以降の日本の近代史のようなものも見え隠れします。参加していろんなことを考えさせられた映画でもあります。

普段は俳優として、体を使って肉体的身体表現がつくのですが、今回は声の出演ですのでキャラクターといものを考えながら、辰巳先生の持っている『劇画漂流』の世界や、それぞれの作品の持っているキャラクターをシンガポールの監督と作り上げる。日本人の中でもいろいろと解釈が出てくる世界。今まで直視してこなかった日本の近代史が混じりあう話なので、外国のエリック・クーという辰巳先生の大ファンであり、同じアジア人であり、彼らの目線で視点でこの作品がどう捉えられるのかと多重構造になっているという感じでした。

 

Q:シンガポールの監督が作った作品なのかと思うほどに、日本という味が出ていました。哀愁が漂っている作品。別所さんが『TATSUMI』で6役を演じるうえで、大変だったことはありましたか?

 

別所さん:キャラクターがあって声で命を与えるという作業は、改めて何役もあるいうので声のトーンという技術的なことだけではなく、根っこにあるキャラクターを考えるという意味では、キャラクターの背景(パーソナリーヒストリー)といいますか、キャラクターの昭和をリサーチしながら工場で働く人達の生活感はこうなんだとか、何にこの人は怯えて生きているんだろうかとか、好きな女の子はこういうものだとか、一日のライフスタイルはどうなっているのだろうかを考えながら組み立てる作業が、楽しくもありとても大変でもありました。

 

Q:別所さんの6役の声と映像がピッタリ合っていたからこそ、観る人を感動させ考えさせる作品になったのだ思ったのですが?

 

別所さん:自分でも出来上がったものを観た時に、自分もいろんな風に組み立てみたのですけれど、思った以上に声の出演ということでもいかされていたと思いました。根っこにあるキャラクター一つ一つの考え方や生きざまを考えていないと単純に声のトーンを変えただけでは演じきれないので、何役もやらせていただいたのは、挑戦ではありましたが良かったと思いました。

 

別所さん:日本人がちゃんと直視してこなかった昭和の現代史を辰巳先生は劇画という世界で物語を作っていて、エリックというカンヌの常連の監督が映画にすることで、世界中の人が評価し、知らないのは日本人だけという恥ずかしい状態。この作品に関わるまでは、辰巳先生がどういう人かを詳しく知っているわけではなく、劇画や「劇画漂流」という作品を知りませんでした。

 

Q:何故日本人が昭和の現代史に目を付けなかったのかと思いましたが?

 

別所さん:こういう問題提起や社会的な一種、映画の役割は娯楽であり、その時代を切り取った次の世代また次の世代が何百年後かに、例えば源氏物語や徒然草のように、振り返る文化になっていて、その部分を海外の人はもの凄く評価しています。僕たち日本人は、それをちゃんと表現をすることを恐れているのか、あまりそこに目を向ける暇がないのか、だから世界的に評価を受けているのだと思います。

 

Q:目を背けていた部分の劇画が映画化された『TATSUMI』、今後の上映が楽しみですね?

 

別所さん:これはちょっとほろ苦い、決して後ろ向きではない。辰巳先生の半生という縦糸に時代と横糸が重なっている。いろんなアングルで貴重な作品に関われたと思っています。

 

 

作品解説

戦後占領期の日本で漫画に情熱を傾ける辰巳は、尊敬する手塚治との出会いを経てますます制作威力を燃やす。当時の漫画は子供向けというイメージが強く、それに異を唱える辰巳は、「劇画」という新語を生み出し、大人向きの新しいジャンルの開拓者となっていく。庶民の哀愁に満ちた生活描写から戦後日本の姿が浮かび上がる。映画の完成に合わせて辰巳作品を集めた『TATSUMI』(青林工藝社)も急遽出版された。カンヌ11ある視点部門出品作。

 

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