3日(土)、東京浜町・明治座で、明治座創業140周年記念「明治座十一月花形歌舞伎」の初日舞台公開が行われた。昨年5月に大好評を博した明治座16年ぶりの歌舞伎公演に続き、四代目市川猿之助が明治座に初登場。明治座は、昭和50年代に三代目市川猿之助(現・猿翁 )が数多くの復活狂言を初演するなど、澤瀉屋(おもだかや)と大変縁の深い劇場。そして、このたび、猿之助の名跡とともに、明治座25年ぶりに”猿之助歌舞伎”が帰ってきた。昼の部は温かな夫婦の情愛が染みる「傾城反魂香」(右近)と、四代目猿之助による鮮やかな早替りで魅せる華麗な変化舞踊「蜘蛛絲梓弦」(猿之助・右近)、そして夜の部は大蝦蟇の登場や葛籠抜けや宙乗りといった、スピード感とケレン味溢れる澤瀉屋らしい演出の「天竺徳兵衛新噺」と、いずれも歌舞伎ならではの派手な仕掛け、見せ場満載の十一月花形歌舞伎。
(C)松竹
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『傾城反魂香』
近江高嶋の六角家の息女・銀杏の前は、絵師の狩野元信(門之助)を慕い、夫婦の約束を交わした。しかし、御家乗っ取りを企む家老がこれを阻み、元信を柱に縛り、姫を奪い去る。一心に念じる元信が自らの血で虎の絵を襖に描くと、不思議なことに絵の虎が抜け出し、元信を助ける。元信の弟子の雅楽之助(猿弥)は、姫救出のため後を追う。
一方、大和の絵師・土佐将監(とさのしょうげん)の館では、百姓たちが虎退治にやって来るが、将監(寿猿)は本物ではなく絵から抜け出た虎だと見抜くので、弟子の修理之助がこれをかき消す。将監はその腕を褒め、修理之助に土佐の名字を許す。
これを聞いてやって来たのは、将監の弟子・浮世又平(右近)と女房おとく(笑也)。吃音の又平に代わっておとくが土佐の名字を許して欲しいと頼み込むが、将監は絵の功もない又平夫婦を突き放す。絶望した又平は、おとくと共に死を覚悟する。最期の絵姿として、又平は手水鉢に自画像を描くが・・・
『蜘蛛絲梓弦』
古くから伝わる源頼光の土蜘蛛退治の説話は、能楽や長唄舞踊の『土蜘』など、数多くの作品に取り込まれてきました。『蜘蛛絲梓弦』は、明和七(一七六五)年に江戸市村座で初演された作品で、蜘蛛の変化を早替りで見せ、好評を得ました。この度は、新猿之助が童、薬売り、新造、座頭、傾城、蜘蛛の精の六役を早替りの趣向で踊り分ける注目の変化舞踊。
猿之助が舞台から姿が消えた瞬間、花道から猿之助が登場するという、早い動きと早替り、そして豪華な衣装と観客は魅了され、「澤瀉屋」との歓声と拍手の渦。
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『通し狂言 天竺徳兵衛新噺』
実在の人物「天竺徳兵衛」の伝説は、江戸時代では数多く歌舞伎化されてきた。中でも徳兵衛が妖術を使う異国の謀反人として設定されることで、奇想天外な物語が生み出されてきました。本作は、鶴屋南北の『天竺徳兵衛韓噺』を中心にしながら、同じく南北の『彩入御伽草』の小幡小平次の怪談話を綯い交ぜにして、三代目猿之助によって昭和五十七年(一九八二)年に歌舞伎座で初演された三代目猿之助四十八撰の内のひとつです。大蝦蟇に乗った徳兵衛の屋台崩し、殺しの場面での小平次とおとわの早替り、幽霊・小平次の仕掛けでは宙乗りとなり、時に会場に笑いを誘う場面も。、徳兵衛の葛籠抜けや宙乗りでは歓声と拍手喝采!歌舞伎のケレン味を存分に用いて、誰もが楽しめる作品になっている。所々に現代の世の中の話題なども組み込まれている。新猿之助による壮大なスペクタクルに富んだ通し狂言が見せ場。
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幼い頃より伯父・ 猿翁の姿を近くで見続け、 澤瀉屋の血と芸を受け継ぐ四代目猿之助と、昭和50年に部屋子となり、その精神を受け継ぐ市川右近、そして、兄猿翁と共に澤瀉屋の芸を継承し、支え続けている市川段四郎が出演。
「明治座 十一月花形歌舞伎」公演初日に寄せて 市川猿翁コメント
明治座は”猿之助歌舞伎”にとって大変縁の深い劇場でございます。昭和四十九年より、毎年のように新しい企画を当劇場で実現させ、とりわけ五十四年四月の『伊達の十役』は大入り大好評で屈折の人気狂言となりました。公演は十四年にわたって続けられ、三十代から四十代の私にとっての明治座は、七月の歌舞伎座とならぶホーム・グランドでした。
この度、所謂”猿之助歌舞伎”が、二十五年ぶりに明治座にて上演されますことは、実に感概深いものがございます。新・猿之助のスタートにふさわしい新版復活通し狂言にご期待いただき、よろしくご声援くださいますようお願い申しあげます。
市川猿之助コメント
三代目の伯父(猿翁 )は、明治座でたくさんの復活通し狂言を初演してきました。その様子をずっと見てきましたから、明治座は私にとっても非常に思い出深い劇場です。昨年の十六年ぶりの歌舞伎公演に続いて、今年は四代目市川猿之助を襲名して初めての明治座出演です。
今回は明治座の特別な宙乗り機構も駆使して、大仕掛けあり、早替りありの澤瀉屋らしいスケール感溢れる演目で臨みます。伯父が創り上げた”四十八撰”があるからこそ、それを受け継ぎ練り直すことができる。これは非常に有り難いことだと思っています。
明治座における新たな”猿之助歌舞伎”の始まりとして、まずはこの一ヶ月、お客様に喜んで頂ける舞台になるように精一杯勤めさせて頂きます。
市川右近コメント
明治座は、私が師匠(二代目猿翁)の弟子となり、大阪から上京して初めて出演させていただいた劇場です。その後も数々の復活通し狂言に出演させていただきながら、ストーリー、スピード、スペクタクルを軸とする”猿之助歌舞伎”が次々と生まれていく現場を目の当たりにしてきました。
その懐しい明治座に25年ぶりに出演できること、そして”猿之助歌舞伎”の新たなスタートとなる記念すべき公演に参加できることを大変嬉しく思います。
今回は全作品に出演させて頂きますので、それぞれの面白さを楽しんでいただけるよう精一杯勤めたいと思います。どうぞ宜しくお願い申し上げます。
「特撰・幕の内弁当」(前日まで予約)や「月替わり膳」(限定30食)も好評。また、今月だけ明治座に「豆しば」がやってきます。そして、あの「歌舞伎座売店」も堂々登場!公演期間中、3F(1階客席階)ロビー《明治座横丁》にて「歌舞伎座」が出店いたします。歌舞伎座土産として人気の雑貨やお菓子、そしてもちろん四代目市川猿之助襲名記念の限定グッズや猿之助愛用のコスメのブースも設置。